5GによるWeb開発の変化を予想する

 2020年から商用化が始まる5G.対応端末が普及する2022年以降,Web開発の技術は変化を経験する.今までボトルネックになっていた困難が取り払われる代わりに,今まで当たり前だった技術がレガシーになっていく.今後10年間で起こるとみられるWeb技術の変化を予想してみた.

超高速大容量

ムービフィケーション

 コンテンツが動画化する.動画がさくさくみられるので動画コンテンツが増える,だけではない.コンテンツが動画化すると思う.今まではスクロールバーをマウスでドラッグしたり,ディスプレイをタップしないと,次のコンテンツは見られなかった.コンテンツが動画化すれば,手指の操作をしなくても,次のコンテンツがディスプレイに表示され続ける.手指で操作するのは,コンテンツの表示速度を変えるときか,表示を停止するときくらいになるだろう.それらのUIはブラウザが作っておいてくれるだろう.自動でスクロールする関数や,スクロール速度を調節するパラメータ,横方向のレスポンシブデザインも普通になる.

Webフォントの多様化

 特に日本語では,Webに使用できるフォントは限られており,OS標準フォントを書き並べるか,WebフォントをCSSで指定していた.表示まで数秒間が掛かるので,Webフォントの採用には積極的でない場合が多かった.ところが,5GによりWebフォントがさくさく読み込まれるので,Webフォントの利用が爆発的に増加し,日本語フォントを制作するデザイナーも増えるだろう.現在のところ日本語フォントを制作できるツールはほとんど市場に出回っていないが,Webフォントが普通になれば,フォントのSNSが広まり,文字に対する関心が高まるだろう.フォントファイルの権利関係には新たなサブスクリプションも適用される.

WordPressがレガシーに

 PHP/Ruby/PythonでできたCMSやMVC FWが広まってきた.こうしたスクリプト言語の良さは,コンパイル不要ですぐに動くことだった.しかし,さくさく読み込まれるようになれば,スクリプト言語の良さは相対化され,JavaやGoやElixirらがWebの言語として採用されることが増えるだろう.スクリプト言語では充分に構造化できなかったWeb設計も関数化・オブジェクト化できるので,Webページのオブジェクト化,パーツの再利用が進められる.headタグをページごとに出力するモジュールや,ヘッダー・フッターを記述する関数が当たり前になり,WordPressだけが持っていた良さが特権ではなくなっていく.

高信頼低遅延

ブラウザオートリロード

 コンテンツを更新するには,キーボードの更新キーやブラウザの更新ボタンを押さなければならず,コンテンツが素早く高頻度で更新できるという概念は,Webは持たなかった.ところが,リアルタイムで更新者と受信者がコンテンツを共有できると,ブラウザは自動で再読み込みする機能を搭載するどころか,ほぼ常に読み込む仕様に変わるだろう.端末の消費電力が許せば,数ミリ秒の頻度にもできる.常に最新のコンテンツが見られるので,更新ボタンはなくなる.

キャッシュレス開発

 Web制作で面倒だったキャッシュのクリア.読み込みを省いて速度を上げるためにブラウザが保存していた.しかし,ブラウザにキャッシュを保存する機能は,古いコンテンツを見るための機能へと変わる.ブラウザはキャッシュを保存しないことがデフォルトになる.Web制作でCSSやJavaScriptを更新するたびにキャッシュをクリアする必要はなくなり,Web制作者間でのトラブルもストレスも減るだろう.

Ajax/async/preload転用説

 3G/4G時代にWeb設計を革命したAjax.5Gでは通信を非同期にする利点がなくなるので,Ajaxの使われ方が大きく変化する.わざわざ非同期にする目的は,同期して表示されては困るコンテンツ,遅延が必要なコンテンツのためにAjaxが使われ,用途が全く逆になる.更新タイミングを予約しておきたいコンテンツ,ユーザーのアクションを待機して表示するコンテンツを,Ajaxを使ってわざと遅らせる.パフォーマンス向上という目的はなくなる.

多数同時接続

デバイスファースト

 様々なデバイスにディスプレイが備わるIoT.ユーザーエージェントの種類が増加し,コンテンツファーストでメディアクエリの分岐を増やした対応が難しくなる.様々なデバイスを前提に「いくつかの」メディアクエリで済むように設計するか,モバイルを含む「デバイスエージェント」で分岐するか.いずれにせよデバイスサイズによるレスポンシブデザインは多様化する.各デバイス用にCSSを準備する必要が増す.

環境中心デザイン(ECD)

 ユーザーがWebを利用するシーンは,スマホやPCだけではなくなる.台所の冷蔵庫でレシピを検索したり,車の中で音楽サイトから再生したり,工場のWebシステムで生産管理したり.多様な局面でWebが活用されるので,それぞれのシーンに合わせてコンテンツを設計するようになる.時には人間が操作できない巨大なスクリーンに表示されるかもしれない.駅の看板に24時間映され続けるかもしれない.人間が使うばかりではなくなるのだ.

音声やセンサーで操作

 Webを操作するにはクリックやタップがほとんどだったが,声やセンサーでもWebを操作するようになる.Webの言語にclickやtouchのほか,talkやsenseといった新たなメソッドが増える.画面に触れずに操作できるだけでなく,状況を見計らってコンテンツを変化させる需要が出る.特にセンサーでコンテンツを動かす場合は,人間がコンテンツを操作しないので,人間が操作しやすいデザインより,操作不要で体験しやすいデザインのほうが好まれる.